大会4日間を通して、舞台の葛城GC“春の名物”強い風は吹かなかった。しかし、難攻不落さは、リーディングボードに現れていた。大会3日目を終えて、アンダーパースコアをマークしたのは通算5アンダー・首位のユン チェヨン(韓国)をはじめ、わずか8選手。ビッグスコアをマークするのは決してやさしくない。パーセーブを続け、わずかなチャンスを確実にモノにしていくのが正攻法のように思われた。
最終日最終組は首位のチェヨンを2打差で追う通算3アンダー・2位タイの李 知姫、申ジエといういずれも韓国選手。リラックスしたムードはほとんどなく、“春の女王戦”に相応しい熱い戦いが繰り広げられたのだった。
スタートの1番ホールでチェヨンがバーディー発進し、早くも3打差のアドバンテージを作る。しかし、2番ホールでは李が6メートルのバーディーパットをねじ込み、チェヨンがボギーをたたき、その差は一気に1打に縮まった。
6番ホール・パー4で、チェヨンが20メートル強のロングパットを沈めると、李も10メートルのバーディーパットを入れ返した。そして、カップからボールを拾い上げた李は、次のホールへと歩を進める。チェヨンも李も互いに「ナイスバーディー」とは声を掛けることはなかった。両選手の眼光が一段と鋭さを増す。春の女王戦の真の幕が上がった瞬間だった。
8番ホールでチェヨンが2つ目のボギーをたたいてしまい、李が首位に追いつく形となった。ハーフターン後の10番ホール・パー4で李が2打目をピンそば20センチにつけるスーパーショットを放ち、通算7アンダーでついに単独首位に躍り出る。12番ホールでボギーを打ち、いったんはチェヨンに首位の座を明け渡したものの、14、15番ホールでの連続バーディー奪取で独走態勢を李が固めたのだった。
最終18番ホールも下り2メートルのバーディーパットを沈めた李が、66ストローク、通算9アンダーでフィニッシュ。2位の申ジエに3打差、3位タイのチェヨンには4打差をつけてのツアー通算20勝目を飾ったのだった。
大会2連覇に挑んだ渡邉彩香は68の好スコアをマークしたものの李には及ばず、3位タイに終わった。5位タイには、ベストルーキー賞に輝いた柏原明日架や、自己最高位更新となった永峰咲希、木戸愛が入り、8位には福田真未が食い込んだ。
ベストアマチュア賞は、この日1アンダーでラウンドし、通算6オーバー・27位タイの勝みなみが獲得した。
最終日、9番ホールから3連続バーディーを奪い、通算5アンダーにスコアを伸ばして首位を走る李 知姫を追い掛けた申ジエ。だが、その後はパーをセーブするのが精一杯だった。最終ホールでバーディーを奪って単独2位の座を確保したものの、優勝には届かなかった。
「失敗を少なくしないと勝てないコース。李 知姫はミスが少なく、ショートゲームが上手い。集中力の高さがツアー通算20勝につながったのだと思います」と、申は潔く負けを認め、李を褒め称えた。
逆転優勝を許したユン チェヨンは「(李 知姫は)強かったですし、(ボギーを打たない)あんなゴルフをしないと勝てませんよね。(李を)尊敬していますし、彼女のように長く活躍できるように自分もなりたいと思いました」と脱帽した。
大会4日間で、李が奪ったバーディー数は14。難攻不落のコースでボギーはわずか5つに抑えられたのは、申に言わしめた「ショートゲームの上手さ」にある。
今オフ、ショートゲームとパットに多くの時間を費やし、さらなる高みを目指して来たという李。その成果が早くも表れたと言っても過言はないだろう。37歳でツアー通算20勝をマークしたことで、李は韓国女子ツアーでの永久シードを獲得した。日本女子ツアーでのそれは、30勝しなければならない。「1年に5勝とか7勝しないと無理ですね。今の段階では何歳まで日本でプレーするかは決めていません。これからはメジャーに挑戦して勉強したい思いもありますし、韓国の試合にも出ようかなと思っています」と李。
記念すべき20勝を挙げられたのは、韓国人選手同士の最終組であり、6番ホールでの10メートルのバーディーパットをねじ込むことができたからだと振り返った李。春の女王戦を制したのは、「負けられない戦い」と対峙し、自分のプレーに徹したことが最大の要因だった。
「ショットもパットも満足いく感じで3連続バーディーもありましたが、最後の最後で入ってくれませんでした。もったいない気はします。でも李 知姫さんが難しいパーセーブを続けていて、自分がバーディーを取らないと追いつけないと考えて一生懸命にプレーしました。でも李さんの素晴らしいプレーには敵いませんでした」
「自分のショットが良かったので、よく攻めたと思います。もう少し何とかなったんじゃないかという気持ちもあります。最近は、最終日にスコアを伸ばしたけれど勝てませんでしたという試合が多い。いいプレーをしているだけにこんな展開は悔いが残ります。開幕前からとても大事な試合だと意識していたので、勝てなかったのが何より残念です」
「バーディーチャンスも結構ありましたが、ボギーもあり、ミスが少なくありませんでした。李 知姫選手は先輩プロで、強かったし、あんなゴルフをしないと勝てないんだと改めて思いました。個人的には楽しくゴルフが出来ましたが、スコアは残念な結果でした。日本のツアーには、また機会があれば出場したいです」
「今日のショットの調子ならもっと伸ばせました。5メートル以内(のパット)を外しているので、仕方ありませんが、もう少し行けたかな。1ホール1ホール集中しないといけないコース。ですから1ラウンド、1ラウンド順位を上げて行こうと思っていました。(ベスト5入りは)自信になり今後につなげられたら、と思います」
「我慢比べになると思っていました。5番ホール(パー5)のサードショットが入り、イーグルになって興奮しましたが、その後は落ち着いてプレーできました。優勝するにはもっとチャンスをしっかり決めないといけないと思いました。これからも、もっと練習します」
「もう少しバーディーを獲りたかった…。前半プレーが硬く、キャディーさんから『普段のプライベートラウンドのようにプレーしていいんだよ』とアドバイスされ、リラックスできました。そう言われてすぐにバーディーが来て自分でもビックリしました。目標にしていたベスト5に入れたので、次はベスト4を目指します。一つずつですね(笑)」