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森口祐子さん インタビュー

ヤマハレディースオープン葛城(YLOK)のオフィシャルアドバイザーでもあり、今年1月「日本プロゴルフ殿堂」顕彰者に選出された森口祐子プロに、毎年さまざまなドラマが生まれる、上がり3ホールについて聞きました。

ゴルフの深い愉しみ コースとの対話、挑戦 その2 【山名17番パー3から18番パー5】

──神経戦を戦うような16番が済むと、美しいショートホール17番が待っていますね。

はい、大変美しいホールです。いわば日本庭園に欲しいものがすべて揃っています

グリーン奥の竹林。しなやかにゆれる竹。松や杉と違って包容力のあるゆれ方で目を惹かれます。芝の緑、池の水、バンカーの砂、山水ですね。京都のお寺に欲しいようなものがすべてある。お庭感があります。しかし、ここは「風」の他に微妙な高低差による「錯覚」という罠がある、なかなか難しいホールなのです。

ティーイングエリアはグリーンより数ヤード高いので、ティーイングエリアからだと受けグリーンに見えるのです。 ところがグリーンの奥はフラットになっていてクラブ選択を間違えるとキャリーに乗ってボールが奥にながれたり、また、グリーン手前にはほんのわずかなマウンドがあり跳ね返されたり。なかなかぴたっとバーディーチャンスになりにくいホールです。

175ヤードくらいありますが、最近は攻めてくる選手が多く、昨年は風がフォローだったこともあり、多くは8番、7番、6番アイアンで打っていましたね。なんどもこのホールを経験すると、どんと真ん中に落とすというのではなく、左右のマウンドをうまく使ってピンに寄せたいと思わせるホールです。左手前にピンがあったら左からフェードで、左奥だったらドローで寄せたいと思うのです。それが実はなかなか難しくて左右のバンカーに入れることもよくあります。また、コースレイアウトの妙で上空を風が吹きぬけるので、その影響も受けるのです。

──お話を伺ってきて、この山名コースの難しさがますます実感できてきましたが、選手はどう戦っていくべきなのでしょう。

コース設計の人がどう考え、どんなボールを要求しているのだろうかと最近はあまり言わなくなりましたが、ヤマハレディースオープンに限っては「それを教えてくれるのがこのコースだ」と選手たちに言っています。「迷いも、少しのすきも許しません。」。さらに、「約束されないコース」シュミレーションどおりになかなかいかないコースなのです。

──昨年は、アン ソンジュ選手が強かったですね。

はい、昨年優勝したアン ソンジュ選手は終始トーナメントの中心にいました。彼女は一種の悟りの境地に達していたと言えるくらいに圧倒的に強かった。人と戦っているのではなく、自分のゴルフを追及し、コースにチャレンジしていました。そのアン ソンジュ選手が葛城では一日3つバーディーをとれば勝てると言っていました。ツアー28勝のアン ソンジュ選手をもってしても3アンダーとは、コース設計者に対するリスペクトですね。

最近、飛距離が伸びて、「力づくでコースをねじ伏せることが、勝つことの近道」という考え方が強くなってきています。観ている人もそう思っている傾向が強くなってきたと思います。しかし、力だけでは制覇できないのがこの葛城山名コースであり、アン ソンジュ選手のようにクレバーな戦略も兼ね備えていないと簡単には勝たせてくれませんね。

ナショナルチーム(去年活躍した黄金世代の多くも出身者)はマッピングを指導されています。選手はプレイをせずにコースを歩いて、自分のゴルフでどのようにコースを攻略するかを考え、シュミレーションする、これがマッピングで、いわゆる「考えるゴルフ」です。

帯同キャディーに依存すると自分で考えることが少なくなります。ローカルキャディーさんにお願いする場合は自分で考えなければいけない。あまり考えないで、「機械になりきり」感情を入れないというのも勝つための手段としてはあるかもしれませんが、それは元々のゴルフの楽しさには繋がらないのではと思うのです。

コースは天候によってコンディションが変わり、練習ラウンドとは全く違うコースに変化することもあります。マッピングはこのようなイレギュラーな状況下で効果を発揮します。自分が持つ技量で戦略を練り、どこまで通用するのかを探るなど、自分で考えるゴルフを身に付けるのです。これによりゴルフのチャレンジの奥深さを知ることもできます。

ゴルフコースはティーイングエリアがあって、フェアウエイがあってバンカーがボン、ボンとあってグリーン周りに池があってとどこでも似たようなものと思えるかもしれませんが、この池は何の為に造ったのだろう、この傾斜はどうしてあるのかと設計者の意図を考えたりするとゴルフがもっと面白くなります。

──「考えるゴルフ」と、「機械になりきるゴルフ」と両方あるわけですね。これはプロだけでなく一般ゴルファーにも参考になりそうですね。

ゴルフを楽しむにはボールを打てないといけないので素振りをしなさいと言います。
そして、同じ軌道でボールが打てるようなスイングをひとつ身につけましょう。
そして、コースの設計者の意図を考えたりするようになると、楽しみが広がります。コースによって表情の変わるゴルフ場ですが、絶対水はけのこと、水の流れを考えて造られているから、そうした傾斜のことを頭に入れておくと楽しさが違います。

傾斜や、距離、周辺の風景などとの対比など、コース上の視覚的だましや錯覚はいろいろです。特に井上誠一さんの設計したコースは光の当たり方で見え方が変わったり、バンカーなども迫ってきたりします。「君は今日どうやってこのテストを受けますか」と井上誠一さんから言われているような気分です。

──そして最終18番パー5。選手の順位によっても攻め方が変わるのでしょうね。

トップに立って迎える16,17,18番は通常はパーを取れれば良いホールですが、難易度がもっとも低いこの18番は誰にでもバーディーチャンスがあり、2打差があっても安心できないホールなのです。試合の駆け引きのなかで最も攻めなければならないホールかも知れません。飛距離のある選手はイーグルで逆転も考えられます。

静岡県出身であり、ドライバーがよく飛ぶ渡邉彩香選手にとっては、YLOKには特別な思いがあり、どんな練習をしていても、山名の18番のことが頭に浮かぶそうです。

選手には最後まで諦めなければ奇跡がおきると信じて、18番のギャラリースタンドめがけビッグドライブを決めて欲しいですね。また、今勢いのある「黄金世代」の選手たちがこの葛城山名コースをどのように攻略するのか、今から楽しみです。

──ありがとうございました。

「ゴルフの深い愉しみ コースとの対話、挑戦 その1 【山名16番パー4】」を見る

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